“妖美”













今日、僕は自ら男に身体を売る女に出会った。

彼女は威武堂々と地に足をつけており、
僕はその姿に目を離せずいた。


美しく凛々しいその姿に…。











―抱かせてあげようか?―

  ―総司―







僕が見つけた美しく、怪しく光り輝く花。

蒲公英のように可愛らしいのに、




何故君は激しく僕を攻撃するの?
何故君は僕を虜にするの?



僕は君無しでは生きれない。






多種多様の男を惑わせる彼女は娼妓などではなく、至って普通の娘だった。


何故、こんなことをしているのか。
何故、凛々しく立てるのか。
何故僕は、君のことがどうしようもなく気になってしまうのだろうか…。


別に僕は女に餓えている訳もなく、女に対する欲求もない。
いや、“なかった”と言った方が正しいだろう。

あの娘が気になる。
あの娘の事を知りたい。
あの娘に近づきたい。

そういう気持ちも“欲求”と言うのかもしれない。

その欲求が生み出した言葉が、










「何?」
『ねぇ、抱かせてよ』










それと同時に僕らの深く、濃い関係が始まる。

その時の少女はくすくすと笑っていた。







賑やかな街にも関わらず、
いつも君は静かな居酒屋にいる。

それも1番隅っこ。

君の特等席。




外見が美しいということもあり、言い寄る男共が沢山いるだろう。

そんな男を連れ、君は華麗に舞うのかい?

そんなの嫌だ。

君は僕の上だけで踊ればいい。

だけど僕らは話したこともなければ触れたこともない…
だけど、君が好きなんだと思う。



この嫉妬心と、切ないと叫ぶ心を証拠に挙げよう。


そう心で思ったとき、僕は彼女の肩に手を掛けた。


不敵な笑みを浮かべながら。






「何?」

つんとした様子の君。
今の君には僕も他の男と一緒に見えてるのかい?


それでも構わない。



始まりは一緒でも、僕は絶対に君の1番の特別になってみせる。







『ねぇ、抱かせてよ』









向かった座敷で男女が身体を重ねた。

経験がの差が上手に出たのか、
“抱いた”と言うよりも、“抱かれた”と言うのに近かったように思う。

荒くなる呼吸、抑えきれない声が今でも憎い。

それに比べて、踊るように動く彼女はとても楽しそうに見えだった。

僕はその姿を目を細めて見つめ、快感を受けることしか出来なかったのだろうか。




この感覚はなんなのか、
次はどうしたらいいのか、
意識が遠のいていく…、


自分がなくなりそうで怖い。





決して軽い気持ちで彼女に近付いたんじゃない。

こうなることも承知した筈だった。



だけど、…怖かったんだ。








気が付けば眠っており、僕の腕の中には小さな少女が規則正しい寝息を立てていた。

『眠ってる顔は普通の女の子なのに……さっきの君は誰なの?君がわからないよ』


さっきまではまるで、大人の女性のような顔つきだった。

僕よりもずっと大人の…


子供の様な僕の考えを読むように余裕の見える視線。

体格差も随分あるし、
この様々な事が起きる世の中のことだって僕の方が理解してる。




なのに何故、君を見上げてしまうのだろう…?




僕は悔しさに似た感情を抑えるべく、拳をぎゅっと握った。

握った拳を開けてみると、微かに爪が食い込んだ形が見える。
何故かあまり痛みは感じなかった。


ふう、と溜め息を1つ吐いた。






「何?もう一回して欲しいの?」





眠っていたはずの彼女が目をゆっくりと開いた。

まだ眠気が残っているのかとろんとした瞳を僕に向ける。

『起きてたんだ……』

仄かに笑みを浮かべた彼女は小さな腕を僕の背中へと回す。

「ううん、眠ってたよ。今日は疲れちゃった」

ぐっと距離を縮め、互いの身体がくっつく。

すると、じんじんと互いの体温を感じた。



「気持ちよかった?」



『……』


素直に言えば気持ち良かった。

これほどの快感があったのかと言うほど。

だけど、天の邪鬼な僕は答えを拒んだ。

素直になることが嫌だった。

恥ずかしかったんだ。



「気持ちよかったんでしょ?」


くすくすと笑いながら僕の首筋に口づける。

僕を取り乱せる女の声、行為に苛立ちを感じた。

僕の考えとは裏腹に頬が熱くなるのがわかる。

こんなの…僕じゃない……


『煩いっ………!』



小さな声でそう呟いた。

それでも彼女は笑う。

仰向けの状態になり、手の甲で目を隠せば、彼女は唇に優しい口付けを落とす。

その唇に食いつく様に舌を絡め合った。



「ん……もう一回…する?」

愛し合った唇を離し、無表情で彼女の腕を払いのけ、ゆったりと布団から出る。



「冷たいなぁー」


ふふふ、と笑いながら彼女は足をぱたつかせる。


そんな彼女を無視をして、脱ぎ捨てた衣服を身に纏った。


『いくら?』


未だに小さな身体を布団に埋める彼女に問う。

返事が返って来ないので、横目で彼女を見ればまだ口角をあげていた。




『……っ…。何がっ…可笑しいの…?』

「別に可笑しいんじゃないの。楽しいんだよ?」


“楽しい”と彼女は言う。

わからない、君の思考が。

今の僕は最高に楽しくない。

こんなに自分の思い通りにならないなんて楽しくない。


自分が捕られていく。

だから僕は抗うよ。

自分を無くさないように。




余裕ぶった笑みを浮かべ、見下す様に彼女を見る。




『何が楽しいの?』

強がりだなんて思ってる?

強がりくらいしてもいいよね。



わかってるから、君には適わないことは。



「あんたが私の一言一言に可愛い反応してくれるから………?さっきのあんたの身体みたいに、ね?」



確かに身体は正直だった。

自分の身体じゃないみたいに。

憎いほど正直に。

でも、同じくらい嬉しかった。


素直に気持ちを伝えられない僕にも、
素直になれる一部が僕にもあるんだと。


『………』

「お代はいいよ。あんたは特別」


“特別”?

こんな簡単になれるものなの?

でも、君は僕だけのものになったわけじゃないよね?

だって、また君は違う男共に抱かれる。

違う男に抱かれて、喘ぐ君を想像しただけで苛立ちを覚える。



『…そんな特別いらない。
どうせ僕が来なかったら君は他の男に抱かれるんでしょ?
そんなの、特別じゃない。僕を特別にするんなら、僕としかしないで。』


「ふふっ。じゃ、また来てよ。次はもっとよくしてあげるよ」

『もう、僕としかしないの?』

「それはあんた次第かな。早く来てくれないと、私我慢できくなっちゃう」

楽しそうだね、君は。

僕の気持ちを知ってか知らずかわからないけど…

君の言葉1つ1つが僕の嫉妬心を駆り立てる。



『……ちっ…』

小さく舌打ちをして、彼女に背を向け襖へと向かう。

手を襖に掛け、横目で彼女を見た。


『僕は沖田総司。…君は?』



「私は……



『ふぅん…じゃ、 …またね』


先程まで楽しそうに笑っていた は顔を濁らせ、僕は笑っていた。










『君の弱点みつけた』










僕はさようならの挨拶を“またね”と言った。

それはどういう意味?





また君に会いにくるよ。