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眩しい朝日が部屋を満たし、外からは鳥が ちゅんちゅん と可愛らしく鳴いている。


部屋には自分1人なので、抑えることもせずに大きな欠伸をする。


「んんー…眩しい」



ゆっくりと起き上がり心地良い朝日を浴びる。

「今日は朝御飯の当番だったはず…早く行かないと」


手早く着替えを済まし、廊下に出ると、朝ということにも関わらず どたどた と足音が響いていた。

誰だろうか、と足音の方向を向くと、いつも以上に満面の笑みを浮かべながら走ってくる沖田さんが居た。


『あ、 ちゃん!!おはよう』


息を切らしながらにっこりと微笑んで挨拶が飛んでくる。



「……お、おはようございます…どうしたんですか?」

慌ててる理由を聞いたつもりだったのだが、彼には伝わらずに、


『今日は気持ちが良いくらいに晴れてるよ?』


そう言って、沖田さんは空を仰ぐ。

予想もしない答えが返って来て、苦笑いを浮かべる。


「どうして、あんなに急いでたんですか?」

『こんな日は散歩したくなるよね… ちゃん、朝御飯の前に少し歩かない?いいでしょ?』


またまた予想もしない言葉が聞こえた。


え?と一言気の抜けた声が出るが、沖田さんは構わず言葉を続ける。



『僕の誘いを断るの?』

笑った瞳には狂気がちらちらと見えた。

「いえ、お誘いは嬉しいんですが、私、今日朝御飯の当番なんです…」


思わず目を逸らしながら沖田さんにそう告げる。

『あぁ、そういう事ね』

なるほど、と言わんばかりに頷いて狂気を隠す。

『その事なら心配ないよ、一くんと左之さんが代わってくれたから』

「斎藤さんと原田さんが?どうしてですか?」



質問をしても沖田さんは私の質問に答えようとしない。


変な予感がする…。


『うん、頼んでおいたんだよ、さ、早く散歩に行こうよ』

私の手を掴んで歩き出そうとする私と沖田さんを呼ぶ声がした。

『おーい、総司!! !!』


『平助くん!!』

私たちを見るなり、あぁぁぁ!!と怒ったように沖田さんを見る。


『おい、総司!!何手ェ繋いでんだよ!!離せよ!!』

私たちの繋がった手を指差して平助くんが怒るが、沖田さんは ふふん と笑い、何故か勝ち誇ったように私の手ごとぶんぶんと振る。


『いいじゃない、早い者勝ちでしょ?』

平助くんはむすっと不機嫌になるが、直ぐににやりと笑う。

!!もう片っぽはオレと繋ごうな!!』

きゅんっとしてしまう笑顔で言われては断れないのが女の子。

平助くんが差し伸べた手に自分の手を重ねる。

すると、平助くんは えへへ と照れたように笑う。

それに吊られ、私も同じ様に笑うと、半ば強引に沖田さんと繋いだ手が引っ張られた。

『ちょっと、2人の世界に入らないでよ。それより、僕たちこれから散歩に行くんだから離しなよ、平助』


『総司だけとかずるりぃって!!それならオレも行くし!!な?いいだろ?


「う、うん…私はいいよ?」

『僕は君と2人で行きたかったのに、他の人誘うんだ?』

「…えっと……」

何て答えようか迷うが、答えが浮かばない。

沖田さんの機嫌を損ねると何か不吉なことがありそうだから何とか回避したい。

そんなことを考えていると、平助くんが明るい雰囲気で助け舟を出してくれた。

『総司、あんま を困らせんなって!!』



沖田さんは平助くんに冷たい瞳を向けた後にふんと鼻を鳴らす。


そしてからかうような表情を見せる。


『ま、いいけど。平助にうろうろされてばれちゃうよりマシだからね』

『あっ、馬鹿っ!!そのことは黙っとけって言われただろ!?』

繋いだ手のもう片方の手で沖田さんの言葉を塞ごうとする。

『平助、何を慌ててるのさ?そんなこと言ってるとばれちゃうよ?』

慌てる平助くんを余所に、沖田さんはにくすくすと笑っていて、間に挟まれた私は苦笑いをするしかなかった。

!!なんにも隠してないからな!!』

「…う、うん。疑ってなんてないよ?平助くん」

本当のところ、平助くんたちが何かを隠しているのは悟っていた。



だって。
まず、斎藤さんと原田さんが




“『 ちゃんと散歩行くから当番代わって』”




という理由で代わってもらえるわけないだろうし…


斎藤さんなら



“『理由になどなっておらん』”




って、言い返されそうだし……



そんなことで頭を働かせていれば、沖田さんが私の顔を覗き込んでいて。

『ま、僕たちが君に隠す事なんてないし。仮にあったとして、ばれちゃったら君を斬るだけだけどね』



言葉とは裏腹に彼は優しく私の頭を撫で、優しく微笑みかけてくれる。


『だから変なん疑りかけないでね……頼むよ?』

妙な感覚に少し鼓動を早くさせてしまい、言葉に詰まる。

声が出ないまま、こくこくと頷く。




ここまで隠したがるなんて新選組に関わる重要なことなのかも…

私との散歩が重要なことに関わるかはよく分からないけど、

こういうことは知らない方がいいよね……?


詮索はやめよう…






『じゃ、行こうか。散歩』

ね?と、付け足し、私の手を引く。


「あ、待って下さい。斎藤さんと原田さんにお礼を言いに言ってからでいいですか?」


『… も律儀なやつだなぁ。ま、いいけど』

「そうかな?」

少し首を傾げながら沖田さんの了解を待つ。

『じゃ、早く一くんたちのところに行こ』

足早に移動し、勝手場の近くで足を止める。


『一くん!!左之さん!!ちょっと出てきてくれる?』


勝手場の中に移動しようとはせずに、2人を呼ぶ。

何故だろう。と、疑問を持たないわけがない。


「あ、あの…勝手場に入らないんですか?」


『ん?あぁ、2人が勝手場に立ってるんだよ?中に入ったら危ないじゃない。鍋とか包丁とか飛んでくるかもしれないし』


冗談混じりに言う沖田さんの口は笑っていた。

笑っている場合じゃないかと…



『何だ、総司。 と行ったのではないのか………』



私を見るなり少し驚いた表情を浮かべる。

そんな斎藤さんは、直ぐに無表情に変わり、沖田さんに要件を聞く。


「あ、私が斎藤さんたちにお礼を言ってからと言ったんです!」


が…?何故俺たちに礼を?』

「朝御飯の当番を代わってもらってありがとうございます」


軽く頭を下げると、上からは斎藤さんではない声が聞こえた。



『お、 じゃねぇか、おはよう』


直ぐに頭を上げて確認すると、乱れた格好の原田さんが見えた。

「は、原田さん…おはようございます…」

『左之さん!!何でそんなに乱れてるわけ?』

笑いを堪えながら平助くんが問うと、原田さんはがしがしと頭を掻く。



『どうにもよぉ、俺には料理ってのは向いてねぇみたいでな』



困ったような表情を浮かべる原田さんに、おずおずと私が口を開く。

「やっぱり私が作りましょうか?」


『あ?いやいや、ありがてぇけど、もう直ぐ終わるところだからな!!
お前は散歩でも行ってこい。あ、それより、お前のその格好可愛いぜ?なんつーか、両端から手ェ繋がれて小せぇ子供みたいで』


爽やかすぎる笑顔。

それは褒め言葉なのですか?


「あ、ありがとうございます?」


『…よ、よし!!行こうぜ!!』










――私たちは平助くんの言葉に賛成をし、
2人に背を向け、屯所を出た。