○○夫妻




―――幸せです。
   貴方に想ってもらって…




全て、愛妻な男たち目線です。





<土方夫妻>



新年とはめでたい日で、日付の変わった朝を迎えるのも何時もと違うめでたい朝になる。

朝、起きると隣に眠っている筈の は既に居なくてぽりぽりと頭をかく仕草をする。


『……』

ぼーっとした頭を起こしているとゆっくりと襖が開いた。


そこには何時もと違う着物を纏う が居て、目を見開く。

「あ、歳三さん、起きましたか」


『……あ、あぁ』



「新年明けましておめでとうございます」




何時もと違う雰囲気の がしなやかな仕草でお辞儀をする。

個人的には少し俯いた加減が更に鼓動を煩くさせるだろう。

「これからも末永くよろしくお願いしますね?」

正直、優美な に見とれていて急に投げかけられた質問に困惑してしまう。

『……ぇ……』

「ふふっ、歳三さん起きてます?」

可愛らしい声色で静かに笑う姿が目から離れない。

ゆっくりと近づいて髪を撫でる が愛しくてたまらない。


「寝癖、ついてますよ」


、』

やはり何時もと違う を手繰り寄せ紅くて整った唇に口付ける。

『早いもんだな…俺はこれからも の傍にいる……それと……… …綺麗だ』


柄にもないが、めでてぇ日にはこんなくさい愛の言葉を一言二言伝えたっていいだろう?






・風雅夫妻・








<沖田夫妻>



ぱたぱた ぱたぱた




そんな音が似合いそうな君の足音が部屋に響く。

慌ただしく走る に話しかけると、

今日で何回目だろうか、素っ気ない言葉が返ってくる。

『ねぇ…大晦日なんだからゆっくりしたら?』

「お正月の準備が終わるまで待って下さいね」

そんな素っ気ない態度ばかりとると僕の機嫌を損ねちゃうけどいいのかな?

『……』

ぶぅっとふてくされた表情を浮かべるが、忙しさにし追われ全く目に入っていないみたいだ。


『僕、もう寝ちゃうよ?』

「はい、先にお休みになってください」

『……夜中に君が布団に入ってきたら起きちゃうじゃない……』

「じゃ、今日は隣に布団敷きますね」

苦笑いに似た笑みを浮かべながら僕を見るが、そんな時も手作業を止めなくて、むっとしながら立ち上がる。


そのまま の前に立つと はきょとんとした表情、

僕は少し怒ったような表情をしていたのに、つい、顔が和らいでしまう。



『…僕は』



半ば強引に を抱き上げ布団へ向かう。




『僕はね…出来るだけ近くで新しい年を迎えたいんだよ… と、ね…』




「総司さん」

子供みたいと笑いながら言うけど、本当に思ってるんだよ?



『お正月の準備は明日僕も手伝うから、今日は眠ろう?』

「そうですね」



幾年も愛おしい の近くで新しい年を迎えるのが僕でありますように。




でも、離れることはないよ、

だって愛し合っているから。




・一心夫妻・






<藤堂夫妻>



朝、ぱっちりと目をあけると目の前にはすやすやと静かな寝息を立てながら眠る がいた。


そんな風景を眺めているとはっと今日は元日だということを思い出し、

の頬をさするように触れてみる。


、朝だぜ……』

「…んんー……」

『明けましておめでとう』


とろんとした瞳で柔らかく微笑み、おはよう、とゆったりした口調で話す。


「明けましておめでとう……これからもよろしくね…平助くん」

『あぁ、ずーと俺が傍にいる』


2人布団の中で抱き合うと、背中は少し寒いが、心も身体も暖かくなるような気がした。


「ありがとう」



『なぁ、 …俺、夢見たんだ…すげー幸せな夢』

「どんな夢?」





『「2人が何時までも幸せに暮らしている夢」』





自分の声が二重に聞こえた気がした。

いや、聞こえたんだ。

『え?』

「私も、平助くんと同じ幸せな夢だったよ…」

『マジで?俺らすげーじゃん』

「うん!!初夢は正夢になるんだよ」

少し照れながらも微笑む に釣られ、自分も顔が綻ぶ。

『正夢にならなくったってそうなってるけどな』







あの時、すごく手に入れたかった愛おしい が……儚かった恋がここに有るのだから。





・同心夫妻・





<斎藤夫妻>



『明けましておめでとう……これからも宜しく頼む……ず、ずっと俺の傍に居てくれ…』



自分でも顔に熱が集まるのがわかった。

たったこれだけの事を言うにもこの恥ずかしさ……鼓動が煩い。


「おめでとうございます、此方こそ宜しくお願いします」

その後の言葉を期待していると、 が俯く。

『ど、どうした?具合でも悪いのか?』

少し戸惑い に寄るとじっと上目遣い、そして淡く頬を赤らめている がいた。


「私はずっと一さんの傍に居ます……ずっと、ずっと一さんの傍に居させて下さい……
私は一さんだけを見て…生きていきます」


も同じ気持ちなのだろう…

小さな白い手で胸を抑えている。


鼓動が煩すぎて、相手に聞こえないか不安な気持ち。


可笑しな高揚感。


お互い同じ気持ち。


『あぁ…俺もだ…ありがとう』



もう、おまえしか見る必要がない…。

こんなにも鼓動が早くなる程に を愛しているのだから。




・執心夫妻・





<原田夫妻>



「明けましておめでとうございます」


『あぁ、おめでとう、これからも俺を宜しく頼むぜ?』


「はい!!私こそ宜しくお願いしますね」



1月1日。

一年の始まり。




「左之介さん、お酒お呑みになりますか?」

『いや、今日はやめておく…めでてぇ日だからな』

意外な発言だったか?

がきょとんとした表情で此方を見つめるので微笑む。

「…普通おめでたい日に呑むものじゃないんですか?」

『ん?まぁ、世間一般からするとそうだろうな…』

「……」

はまだ解らないという表情のままで、

『こんな、1年に一度のめでてぇ日をおまえと祝えるんだ、
酒なんて呑んじまって酔っぱらっちまうのは嫌だからな…』


勿体無いだろう?と付け足すと はえへへと笑う。


『ま、新選組に居た時は馬鹿みてぇに呑んでただろうけどな』


「そうですね…左之介さんがそんなこと考えているなんて思いませんでした……嬉しいです」


『あぁ、やっと手に入った夢の生活だからな…大切に過ごさねぇとな』

手を伸ばし、 の髪をくしゃくしゃと撫でる。

気持ち良そうに目を瞑る の額に口付けるとびっくりしたように目を開くが、

直ぐにとろんと照れたような表情になる。





長年、願い続けていた との生活がここにある。




この生活も、この時も、この場所も……何より が心から愛おしい…。



・重宝夫妻・



<風間夫妻>




『我妻よ、此方へ来い』

いつもの低い声で を呼ぶ。


は仄かに頬を染め、しなやかに隣へ座る。


『何故隣に座るんだ?』

「え?」

『此処に座ればいい』

とんとんと自分の膝を叩く。


「は、恥ずかしいです」


俯きながらも、上目遣いで此方を見る瞳は戸惑っていた。

『恥じることなどないだろう?』


言葉が終える前に の頬に触れると、 の瞳はとろんとしていく。


「じゃぁ…」

膝にまでは座らないものの、ぴったりとくっつくように寄り添う。


髪を撫でるように の頭を抑え、耳元に近付く。



『今年もずっと俺の傍にいろ…』



「ふふっ、普通、明けましておめでとう、でしょう?
でも、私はずっと貴方の傍にいます……ずっと…ずっと一緒に居させて下さい」


柄にもなく嬉しいという感情がこみ上げてきて仕方がない。

押さえきれないこの感情が溢れ出しそうで…

これが愛という感情なのだろうか?

を愛しているという感情。



幻鬼夫妻

・幽玄夫妻・





<新選組風情>



近所迷惑にならないだろうか…?


大晦日から元日にかけてこんなにも騒いだりしたら…




『おらっ!!斎藤!!総司!!ちびちびちびちび呑んでじゃねぇぞ、こらぁ』

『ちょっと、土方さんにお酒呑ましたの誰?煩いんだけど』

面倒くさそうな表情で周りを見回す沖田さん。


『副長!!落ち着いて下さい』


『一君、もう無理だよ、完全に出来上がってる…無様なものが』


『総司!!副長に向かって無様とはなんだ無様とは!!今すぐ撤回するんだ!!』

『一君だって連呼してるじゃない“無様”って』


含み笑いをする沖田さんが、ちらりと土方さんを見ると大きく笑い出す。


『あははははっ!!土方さん寝てるじゃないっ、今の一瞬で何があったのさっ』

少し涙目にもなりながら笑いを堪えようとするが、意味を成さなくて…。

『副長……そんなところでおやすみになったら風邪を……』


斎藤さんがおろおろするが、原田さん乱入。


『おぅい!!おまえら全然酔ってねぇじゃねぇか!!呑んでんのか?』

『また、煩いのが……』

『左之…呑み過ぎじゃないのか?』

『ああ!?呑み過ぎぃ?こんなめでてぇ日に呑まずにいられっかよ』

『おめでたい日じゃなくても呑むくせに……』

『あはははははっっ!!おい、新ぱぁっつぁん!!呑み過ぎだってぇ!!
よっしゃぁぁあ!!俺だって負けてられねぇのな!!』


向こうから聞こえる騒がしい声に釣られて、其方を向くと、

飲み比べをしているのか、徳利を片手に笑う永倉さんと平助くんがいた。


『次、左之さんだぜ!!あ、総司と一君もやろーぜ!!』

『俺はやめておく、総司は…』

斎藤さんが沖田さんの方向に振り向く前に沖田さんがむくっと立ち上がる。


『僕も参加しようかな、たまにはいいでしょ?』


『……総司』


『一君もやろうよ、ね?』


少し戸惑うが、渋々斎藤さんも立ち上がる。


『では、俺も参加しよう…』

『土方さんも誘いたかったなぁ…』


『それがな、総司…土方さんも誘ったんだが、ムキになってあの様だ』


けらけらと笑い出す原田さんと沖田さんの隣で斎藤さんの不機嫌さといったら言葉にもならないくらいだ。


『じゃ、まずはこんくらいな!!』

明るい声色でお酒を渡す平助くんの手には零れそうな程にお酒が注がれた枡があった。


『それじゃ、僕からいくね』


零れないように慎重に枡を受け取った沖田さんは、ばっと天井を仰ぎ、お酒を一気に平らげる。



『まだまだ、序の口だよね』




何時もの笑みを浮かべながら言う沖田さんにはまだまだ余裕があった。


『まぁな、じゃ、次は斎藤な』


原田さんは赤らめた頬のまま、斎藤さんに先程沖田さんに渡した枡と同じだけのお酒を注いだ枡を渡す。


斎藤さんは無言で沖田さんと同じように一気に天井を仰ぐ。




『まだ大丈夫だ』



落ち着いた声でそう告げる

そんなやりとりが何度目だろうか?

みんな酒豪なのか、幾度も続いた。


『へい!!つぎ、そうじな!!』


呂律も怪しくなってきた平助くんがまた、枡を沖田さんに手渡す。


同じように、また沖田さんが天井を仰ぐ。


ふらふらとした足取りなので、上を向いた瞬間、後ろへ転げ落ちるんじゃないかと心配だった。



『あぁー…まだ…まだ……大丈夫だよ?』


『そーじぃ、むりをしちゃいかんぞ?』


『新ぱぁっつぁん、だれだよーそのしゃべりかたー』

『じゃ、次さいとーな!!』

『むしかよー』


またまた無言でお酒を受け取り、お酒を飲み干す。


『………』


『さいとーはあれだな、酔ったら無口になるんだな』

『さのさん、はじめくんが無口なのは元々だよ』

『それもそうだな』

そのあと一斉に大爆笑だ。



どうしてその話題でこんなにも爆笑出来るんだろう…お酒の威力だろうか?




『あれぇ?新ぱぁっつぁん寝ちゃってるよー…はーい、だぁつらくしゃー…』


平助くんがげしげしと永倉さんを蹴るが、全く応答は無かった。

これが普通の状態なんだろうが…


『なさけないなぁ……新八さんも………』


沖田さんが身体を左右に揺らしながら喋る。

『じゃ、平助だぞ』

『マジ?またおれー?早くない?だれかぬかしてるんじゃねぇの?』

怪訝そうな表情を浮かべながらも枡を受け取る。

『んなわけねぇよ、はやくのめ』

『ま、いっかー、じゃぁーのむぞー』


元気に声をかけてお酒を流し込むと、ばたっと大きな音を立てて平助くんが床に転がる。


『よぉし、へーすけ脱落ー。はーい、次おれなー』


何度目かわからな会話をしながらお酒をのむ。


『じゃ、次さいとーな!!』

またまた無言で飲み干し、無言で終わる。

『そーじー』


さっきから一言も言葉を口にしていない沖田さんに目をやると頬を床につけながら眠っているのが目に入った。

『そーじいつの間にか脱らー……』

原田さんの言葉を遮ったのは睡魔だった。


平助くんと同じようにばたっと大きな音を立てて床に転がる。


あとは斎藤さん…


目をやると、綺麗な姿勢で正座をした斎藤さんが真っ直ぐ前を見ていた。


明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。


それと、斎藤さん、おめでとうございます。