愛してない、愛してないよ。
私は貴方を愛せない。
愛しちゃ駄目。
戦いが貴方の生き方。
戦えない私は…私は貴方の傍にいる意味なんて無い。
声になることのない言葉。
私と貴方の間を行き交うことのない言葉。
┓
愛
し
て
る
┗
見慣れていた風景がなくなり見慣れない風景になった。
土方さんもいない。
土方さんと生活した証の物もない。
1人分のご飯。
1人分の洗濯物。
「……どうしたら良かったの?」
狭い部屋に私の声が木霊するように聞こえた。
土方さんの傍にいたい。
だけど、私がいて何になった?
役に立てたかな?
役になんて立てなくて、足手まといなだけ……
あれから数ヶ月たって、
土方さんと初めて出会った季節になった。
薄い桃色の桜を見ていると胸が苦しくなる……
「土方さんっ…」
桜が綺麗なのに……
見えない…
見えないよ……
拭っても拭っても頬を伝って落ちる雫の所為で……
「……帰ろう」
私に優しさなんていらない。
独りで生きていくんだから。
貴方を…土方さんを忘れられない私は独りで生きていくんだから。
「…………帰るんだから」
動け!!早く動け!!
帰るんだ!!
「……ぁ…」
前へ進むはずの足が、その場で崩れた。
少しの期待が有ったのかもしれない。
もしかしたら……
貴方が来るかもしれない…
「……ぅっ……ぁ……土方、さんっ…」
『なんだ』
風のように私を包み込むような声が背後から聞こえた。
振り返ると居るはずのない土方さんがいた。
『
…悪い……俺はお前がいねぇと駄目みたいだ』
「え…」
『お前がいねぇと…調子が狂いやがる…』
地に膝をつく土方さんは私を優しく、抱き寄せる。
「でも…土方さんは…私を……」
『あぁ、お前を追い出した…』
「それは私が役立たずだったからでしょう?
なら、私はいないほうが……貴方の前から消えた方が!!
貴方の邪魔をするくらいなら私死んでしまった方がまだまっ」
何故だろう?
私の言葉が遮られた。
私は状況が把握できるまで目を見開くことしか出来なかった。
私の頭を抑える貴方の大きな手に、
私を引き寄せる貴方の頑丈な腕に、
私の鼓動を早くさせる整っている顔に、
私を捉えて離さない貴方の瞳に、
私を従わす貴方の声に、
私の唇に重なった綺麗な貴方の唇が…
その全てが直ぐ目の前にあった。
「…っは………」
『死んだ方が増しだなんて滅多なこと口にすんじゃねぇよ!!』
「だって……そうでしょう…?愛する人の行く道を塞ぐなら…」
『誰が邪魔だなんて言いやがった……』
「……え?」
見上げると呆れた表情ではぁって溜め息を吐く土方さんが居た。
『
…お前、自分が邪魔だから追い出されたとでも思っていやがんのか?』
「…だってっ……土方さん急に理由も言わずに荷物纏めて出てけって……」
涙を堪えて話す私を見て
『……悪い…お前を追い出したのは理由があったんだ……このまま新選組に居続
けたらいつしか戦が始まり、お前を新選組から逃がす機会が無くなっちまうから
な……』
「逃がす…だなんて…そんな言い方……私は好きで新選組に居るんですから…」
『なら……戻ってきてくれるか?』
待っていた言葉を待っていた愛おしい声で言う土方さんは頬を赤らめていた。
「はい……当たり前です」
先程の涙と違う涙が嬉しくて嬉しくて溢れ出す。
『良かった……』
細くて長い土方さんの指が私の涙を拭う。
『おまえは直ぐに泣きやがる……ほら、見てみろ、桜がこんなに綺麗だぜ?』
「本当に……綺麗」
――また、貴方とこの桜を仰げることが幸せに感じます。
幾年も貴方と共に……