貴方が抱えていることを半分私に分けて下さい。




半分こしたなら…貴方の心は少しだけでも安らぐでしょう………?




「私にも何か手伝わして下さい…
私にだって書類の整理とか…お遣いとか……いいつけてもらえば!!」


でも…貴方は優しく微笑んで、




『じゃ、茶でも淹れてきてくれねぇか?』





…私だって……貴方たちのお役に立ちたい……


「…はい………」





小さく返事をして、悲しげに微笑むお前。

そんなに小さな身体でどれだけのことを思っているんだ?

俺たちの“役に立とう”そんなことがお前を不安にさせているのか?

俺はどうしたらいい?


「失礼します」


柔らかな声が聞こえ、ゆっくり襖が開く。

冷たい風が吹く外が目の端に映る。

久しぶりに外を見た…

ずっと部屋に籠もりっぱなしだってことが思い知らされる。


、襖を開けておいてくれ』

「ですが…お身体冷えますよ」

『あぁ……大丈夫だ…少し外が見たくなってな…
最近、全くと言って良いほど空を仰いでねぇからな……』


「そうですね…土方さん、全く外にいらしてないですもんね…」


湯気を立てる茶を乗せる盆を持ち、俺の傍へと近づき、小さな白い手で湯飲みを差し出す。



「お身体、冷やさないように暖めて下さいね」

『あぁ……今日は随分冷えやがる…』


「…………皆さん…心配してますよ…土方さんが最近顔を出さないって…」


『あぁ……』

「少しくらいお休みになったらどうです?」

『分かってる……』

「今、休まないといざという時に…」

『もう直ぐな』



「…土方さんはいつも返事ばかり…私の言うことなんて…」


潤ました瞳をキッと此方に向ける。

不安で、戸惑っている瞳だった。


『……近藤さんにもそう言われたよ…同じ言葉でな……“最近トシは顔を出さない”
“少しは休んだらどうだ”
“それではいざという時に…”って』



苦笑いを浮かべながら をみると俯いていた。

『……近藤さんを押し上げるための何かをしておかねぇと不安で仕方ねぇ…
怖いんだよ……あの人をいつまで押し上げていられるか…
いつか…儚く終わっちまうんじゃねぇか…って』


はハッとしたような表情を浮かべ、此方を見る。


「ごめんなさい…私……土方さんの気持ち分かってなくて…」


『別に構わねぇよ……あまり気に病むな…本当に疲れた時にゃ休むさ……心配掛けて悪いな…』


「いえ…私はそんな」

『お前は優しいからな』


湯飲みをそっと置き、強引に の腕を引っ張り、 を抱き寄せる。


「わっ…」


赤子の様に、俺の腕にすっぽりと収まる を見つめると少し戸惑った様子だった。


『世話かけて悪いな…』


頬赤らめて俺を見つめ返すのは、綺麗な大きな瞳で柄にもなく見とれてしまう。


「……私は土方さんの傍にいたいだけですから…」

『そう言ってくれると助かるよ……だが、あまり無理するなよ…』

「土方さんに言われたくないです…」

口をへの字にし、少し目を潤ます に困った様な笑みを向けながら右手でさらさらとした の髪を梳く。


『お前は俺の支えなんだぜ?もし が倒れたちまったりしたら支えがいなくなる……
な?だから無理せずに休みやがれ…』


優しく目尻に口付けをする。


「ん…」


『……泣いてんじゃねぇよ』

急に口付けたことで驚いたのか、きゅうっと目を瞑る


『目ぇ……開けろ』


俺の言葉を聞き、目を開けるが、その瞳はまだ“不安”だと訴えている。


「土方さん……私…貴方を失いそうで怖いっ………不安で…土方さんと離れたくない!!」


大きな瞳から大粒の涙が零れ落ち、俺の姿を捉える。

俺の着物を強く握る手は小刻みに震えているのが分かった。






“死への不安”“人を亡くす恐怖”





それが の心の中。

俺たちの邪魔をしないよう、今まで閉じ伏せていた心の中。


『大丈夫だ…俺はいなくなんねぇよ…ずっとお前の傍にいるさ…』


「…でもっ……もしかしたら…」

次から次へと涙が零れ落ち頬が濡れていく。


『…俺だって不安だぜ?こんな危ねぇとこにお前を置いて…』


「私はっ…土方さんの為なら…死ぬ覚悟はあります!」

涙を堪えて言葉を発するので上手く喋れずにいる の背中を優しくさする。


『だが、いくら覚悟があっても、死ぬってことは怖いだろう?』

少し言葉に詰まり、ゆっくり頷く。

「………はい…」


自分の覚悟が弱いとでも思ったのか、か弱い声で返答する。


『此処に……新選組にいる奴ら全員が思ってるよ…毎日が死と隣り合わせだからな……
お前だけじゃねぇ………それを俺たちで支え合ったら良いだけだ』


「……皆さんも?」


『当たり前だ…死ぬって事が怖くない奴はいねぇよ……
何かの為に死ぬ覚悟があったとしても、な……』


「……」


『そうだろ?』


コクっと が頷き、遠慮がちに抱き締めてくる。


そんな を互いの頬をくっつけるように強く抱き締める。

「私、ずっと貴方の傍に居ます…何があっても」

『あぁ……俺はお前が居る限り死なねぇからお前も死ぬな……俺が守ってやるから』


「はいっ……」


外には静かに冷たい風が流れていて、 と触れ合っている部分が余計に暖かく感じた。


『よし…ちっと、稽古でもするかな…
腕が鈍っちまったらどうしようもねぇからな…… も行くか?』










「はい……土方さんにお供します」









――貴方のお傍に……。