抱きしめてもいいですか?















丁度、晴れた日のお昼休みで、

友達の千鶴と屋上に行こうとしている時に、透き通るような綺麗な貴方の声で私の名前が聞こえた。



場所はざわざわとした廊下。



お互いの横を通り過ぎる人は走って追いかけっこや、移動教室でお喋りをしながら歩く人達がいる。


、放課後準備室に来てくれるかな?用があるんだ』


「……用ってなんですか?」



『ん?聞きたいの?……恥ずかしいなぁ…』



なんて怪しい笑みを浮かべ子供相手に冗談を言う人は私たち生徒の先生で、各学年の女の子に人気だったりする。


「いい!!行きます!」


先生の言葉の意味よりも周りの女の子たちの視線をが気になる……


『じゃ、待ってるね。
あ、そうだ、 1人で来てね』


その微笑む表情に少し心が跳ねる。




『またね』


言葉を言い終えると体の向きを直し、歩いていく。


「…はい…」


聞こえてないだろうけど短く返事をする。

少しの間、先生の後ろ姿をみていると先生の大きくて長い手が上がっていてふりふりと左右に揺れていた。


そんな先生の姿が可愛くてつい笑みが零れてしまう。










「……んー……」

『どうしたの?』


少し心配そうに此方を見つめる千鶴を見る。


「千鶴は恋とかしてる?」


不意に質問してみると、千鶴は少し驚いた様だった。


それは、珍しく私の口から出るガールズトークというものの内容で驚いているのか、

それとも、珍しく私の口からガールズトークというものが出てきて驚いているのかどっちなんだろう。


「ねぇ……」


ちゃん、恋してるの?』


微笑んだ千鶴。

どうしてそうなるの?



不意に質問した私だけど、不意に質問され焦る。

急に千鶴との距離が縮まり、







『もしかしたらだよ? ちゃん……沖田先生のこと好き?』






いつもなら可愛らしい笑顔で微笑んでいる千鶴なのに真剣な面持ちだ。

考えもしなかったことが今耳打ちされた。

「え……えっ……」


ちゃん?』






ない、ない、ない。



だって、先生は先生だもの……

先生と話してても楽しいだけだし……

少しは緊張するけど先生だからだと思うし…



「そんなことないよ……」


『そう?』


多分……

今、頭の中がグチャグチャだ…


分からない…

どっちかなんて。

だって……相手は先生で、私は生徒。

許されないかもしれない…





そんなことが頭の中を埋め尽くしたまま放課後になった。

クラスが解散し、友達同士で挨拶を交わしている。

『じゃ、また明日、 ちゃん』

「うん、ばいばい」


笑顔で返事を返し、自分も重たい鞄を持つ。


「よし、行くか……」


短い独り言を言い、廊下を歩き、沖田先生の準備室に向かう。


ドアの前で立ち止まり軽く深呼吸をしていると独りでにドアが開き、何かに腕を引っ張られる。


「うわっ……」

静かに音を立ててドアが閉まる。


、いらっしゃい』


そうにこやかな声が頭上から聞こえる。

私はきっと沖田先生に抱き寄せられてるんだろう。


先生の服に顔を埋めてる状態で、背中には先生の温かい手の感覚がある。

『ドアの前で何してたの?
少しの間待ってたんだけど、我慢できなくなっちゃって』


絶対我慢してなかった。

だって、早かったもん。


『さ、入りなよ』


先生は私の肩を押しながら奥へと誘導する。


「は…はい」


二人掛けのソファに先生が座る。

「用って何ですか?」

座った先生の目を見ると、意地悪に笑っていた。


『…んー……知りたい?』


「……知りたいって…呼んだのは先生じゃないですか」


見つめ合っていた目を逸らすと先生の溜め息混じりの声が聞こえた。


『どうして目を逸らすのさ……怒っちゃった?』


「別に……」


何故か素っ気ない態度をとってしまう…

頭の中に千鶴の言葉が埋め尽くすように残ってしまってる……。




【沖田先生のこと好き?】





分かんないよ……

だって…先生なのに……

でも…目の前にいる先生を見るとだんだんと顔が熱くなってしまう…

先生と女の子が話しているのを見かけると哀しくなる心。

先生の事を考えるとキュウッと苦しくなる心。

先生の笑顔を見ると嬉しくなる心。


先生を好きと思うと何かが溢れ出しそうになる。


言葉にできないこの気持ち…。


、座りなよ』

ソファに座った先生は自分の隣を手で軽く叩く。

「大丈夫です……用を言って下さい」

早く此処から離れたい。

気づいちゃ駄目な気持ちだ……

気づいたら…今よりもっと苦しくなるかもしれない……


『せっかちな子だなぁ』


陽気に笑う先生が居る。

もっと一緒に居たいよ……

『今日、僕が君を此処に呼んだのはね…君の気持ちが知りたいんだ』



「え?」


『…… …僕の質問に答えてくれる?』


いつも笑みを絶やさない先生が真剣な表情だった。


そんな先生を見て、思わずコクコクと頷いてしまう。

『じゃ、まず座ったら?』


早くこの場から離れたいと言う気持ちが有ったのでずっと同じ体勢で突っ立っていて少し足が痛くなっているのに気づいた。


静かに移動し、先生の隣に座ると、先生は私の方向に身体を向き直す。


は、恋人の条件ってある?』

次は先生が見つめ合っていた目を逸らし、そう言葉を発した。


「条件?」

私が聞き直すと静かに頷く。


「あんまりないですね……好きならどんなに嫌なところとかがあっても嫌いになることはできませんし」


『そっか…じゃ、恋人はいる?』


ゆっくり、慎重に話を進める先生の表情は堅い。



「………い…いませんよ」







『…じゃ、僕のこと好き?』








僕のこと好き?

って?

「………」


『ねぇ、聞いてるの?』


直球すぎる言葉に、
今まで考えていたことを聞かれ、放心状態になっている私を呼び掛ける声で我に帰る。

「それはどういう意味で?」


『……そんな事まで言わないと駄目なの?』


「だって!!もし間違えてたら恥ずかしくてっ……」


先生は少し頬を赤らめ渋々答えた。


『恋愛……的に?』


「……どうしてそんなこと聞くんですか?しかも疑問形だし………」

『…ちょっと……質問してるのは僕だよ?どうして君が質問してるの?』


「さっき2つも答えたじゃないですか、だから今度は私の番です」


『……意地悪だね』


「そうですか?」





その後少し沈黙が流れて、先生が言葉を発する。


『僕は君のことが好きだよ…
もう分かってたかもしれないけど…… が生徒ってことはちゃんと分かってる……
だけど…好きなんだ………』




いつものにこやかな表情とは打って変わって切なそうな表情をする先生を見ると自分まで切ない感情になる。


「生徒と先生の関係なんて気にしませんよ……だって、私も先生の事好きですから」


『……良かった』

「私、今日気づいたんです……先生が好きって…気づいたのは遅かったけど、きっとずっと前から大好きでした」

少しだけ涙が出そうだ…。


嬉しくて…

嬉しくて…


『最後にもう1つ質問…』

「なんですか?」






『抱きしめでもいいですか?』







「はい……」











抱きしめられた身体が暖められていく



心地よい温もりで……。