【怖い……怖いよ…行かないでっ、戻ってきて…よ】
苦痛な夢だ。
夢だと分かってるのに、
現実じゃないと分かってるのに、
覚めない。
怖い。
私は……1人なんだ。
「はっ!」
その日の夢は、私にとって残酷すぎる夢だった。
「はぁ……はぁ……っっう…私っ…1人なんだっ……ぁ」
みんな、みんな…私を見捨てるんだ…
鬼は疎ましく思われる存在…
みんなの視線が……
怖い。
『
』
「は、はい!」
『今日の食事当番は俺とおまえだったな』
「はい……」
『ならば、先に行っている』
「あっ、あのっ!斎藤さん!」
『何だ?』
「……いえ……何でもないです…ごめんなさい」
聞けない…
聞きたくない…
『………』
勝手場には、カチャカチャと食器が触れる音しかしない…。
何だかこの虚しさにまた悲しみが溢れ出る。
斎藤さんは何を考えながら私の隣にいるんだろう?
私をどうにかして此処から追い出す方法?
私を疎ましいと思っているの?
新選組の人達はそんな人じゃないって分かっているのに…
不安で仕方がない……
水に小さな波紋ができた。
この小さな波紋のように私が頼れるのは新選組だけ…
数少ない私の居場所。
本当に私は新選組を抜けたら1人になる。
新選組以外に家族も、恋人も友達も……1人もいないんだ。
寂しい。
『何故おまえは泣いている?』
「え?」
気付くとポタポタと雫が落ちていた。
あの波紋は私の涙だった。
『何かあったか?』
この人の優しさは本当なのかな?
それとも偽りの優しさなのかな?
それが少し怖い。
『何があったのか俺に伝えてくれれば俺が手助けになってやる』
この優しさを手放したくない
本当でも偽りでも……
『何があったんだ?』
「い…や」
『俺は
の力になりたい』
少しずつ斎藤さんとの距離が縮まる。
『此方を向け』
斎藤さんにクイっと顎を上げられる。
『少し目が赤い……涙を流してたのは今が初めてではないな?』
そう言われると余計に涙が零れてきた。
「うっ…あぁぁ…」
『どうした?何を気に病んでいる?』
斎藤さんは私を抱き寄せ、上手く話せない私の背中をさすってくれる。
「私はっ…ひっ…1人なんです…!」
『何故1人だと思う?』
「鬼だからっ」
『鬼は1人なのか?』
「……」
『もし、1人だとおもっているなら
が間違っている』
「えっ…?」
『アンタは…
は1人じゃない』
そう言うと、斉藤さんは少しだけ水をすくい上げる。
『この波紋の中が
の居場所だとしよう、今は
1人だ』
「・・・・」
小さな、小さな波紋・・
『
はあの日の夜俺たちと出会った』
斉藤さんはもう一度水をすくい上げ、さっきより大きな波紋を作った。
『これが
が俺たちに出会ったあとの
の居場所』
さっきよりも大きくなった波紋は水の上で更に大きくなっていった。
『これからアンタは色んな人々に出会う、そこから輪が広がるんだ。
だから
は1人じゃない』
「・・・・」
『俺たち新選組がいつも傍にいる』
「でもっ、皆さんは私を疎ましく思ってる…」
『何を根拠にそう思う?鬼だからといって
を疎ましく思う理由にはならん』
「本当……に?」
『あぁ、武士はそんな者ではない』
どうしてこんなに優しい人なんだろう・・・
『それに……』
嬉しくて涙を流すと斎藤さんが少し顔を赤らめて言う。
『お、俺は…
を好いている……』
「っ!」
『だから泣くな』
「はい!」
優しい手で涙を拭ってくれた。
その手の温もりがいつまでも残っているようだった。