貴方を残してなんて。










今…誰かがお風呂場に入った。

誰だろう?こんな昼間に…



気になる…



お風呂場に近寄ると水の音と苦しそうに声を殺す声…。

誰かを確かめるために少し戸を開ける。

「…っっ…!」


沖田さんだった…

血まみれの…



あの病気のせいで…

『…っ…ごほっ!ごほっ!』

「沖田さんっ!!」

勢い良く戸を開け、沖田さんに近寄る。





ちゃんっ!』





驚いたように目を見開く。


『僕に近付かないで!出てってくれる?言うことを聞かないと殺すよ?』

沖田さんは冷たく言い放つ。



着物ごとお湯に浸かっている。

きっと急いでここまで来たんだろう。

お湯は赤く滲んでいた。


「嫌です!沖田さんの傍に居ますっ」


『君が傍にても何の役にも立たない早く出て行って?
 僕の身体がどうなろうと君には関係ないだろう?』

「・・・・・」

『聞いてるの?』





「・・・っ・・・沖田さんはっ、もっともっとご自分の身体を大切にしてください・・
 それと、私は関係なくありません・・・沖田さんのことが好きだから・・・
 沖田さんが心配だから・・・・・」





『…はぁ…君はどうして言うことを聞いてくれないの…?』


涙が零れる。

ポトポトと・・・

本当は彼が流したいはずなのに・・・




『泣かないで…まだ僕は死んでない』

「分かってます…だけど・・・この涙は私の涙じゃないんです」


『・・・?』

「これは・・・沖田さんの涙なんです・・・沖田さんは泣けないから・・・」

服に染み付いた血を見ると大分吐血していたことが分かる。

お湯に入るために袖を上げる。


『だ、ダメだよ』

「いいんです、私は沖田さんが好きなんです…だから此処にいます」

沖田さんの服に手をかける。


『ありがとう』

脱がせていくにつれ、沖田さんの肌が露出する。


その時外から声が聞こえた。

『昼間っから風呂入ってんの誰だ?』


私は反射的に沖田さんに覆い被さった。


「わ、私です! です!お茶をこぼしちゃって」

『ふーん、そうか』


ちゃん?庇ってくれたのは嬉しいけど胸、当たってるよ?僕は別にいいけどね』


「わ!ごめんなさい!!」

『僕は別にいいって!何だか傷つくなぁ・・・さっきは僕を好きって言ってくれたけど・・・本当かな・・・?』

沖田さんはいつもの調子に戻っていた。


なのに顔色は同じ。



露出してひっつく身体。

心臓がバクバクする。


「あ…服洗いますね」

私がお風呂場から出ようとした時、沖田さんが私の手を握った。


『もう少し、このままでいさせて』

そういって私を抱き寄せる。




『ありがとう…』





少し声が震えていたような気がする。



その声が怖かった。



もうすぐ、壊れてしまいそうで…。


小さくて小さくて・・・・




「はい…」



『あのね、僕も君が好きだ、知ってた?男の子って好きな子ほど意地悪したくなるんだよ?』



「でも・・・・あんな意地悪は傷つきます・・・」



『うん、ごめん・・・心配してくれてるのにね・・・みんなも心配してくれてるかなぁ・・?』


「当たり前です」

『・・・・どうして君はそう言いきれるのさ・・・』


「皆さんも沖田さんのこと愛してますから!」


『・・・・・・・』

「ね?」

『うん・・・・・・そうだといいな・・・・』

やっと沖田さんが笑った。

悲しい笑みじゃなくて、


優しい笑み。